「俺の顧客ノート」
○月×日 成田の兄ちゃん
トカレフTT33 フィリピンから輸入 194mm/858g
装弾数 8 セーフティが全くないのが気になる
俺んちのいわくつきの品。改造済。銀メッキ加工のソビエト製純正品で、中国から日本に流入した「黒星」とは出所が違う。
30モーゼル弾(7.62×25mm)
フルメタルジャケット(フィヨッキ社製)
弾の初速および貫通力が非常に高く強力だが口径自体は小さめなので殺傷力はわりと低い。さらに弾丸の種類から銃が特定されやすいのが問題
今日は成田の兄ちゃんが整備の仕事を持ってきた。それで、うちのおばさんの競馬に付き合わされたようだ。兄ちゃんはうちのおばさんが苦手らしい。そうだろうなあ。おばさん金遣いが荒いから。兄ちゃんは賭事の面子が足りないときによく呼び出される。雀荘でおばさんや片倉のおっちゃんに負けてばかりいるそうだ。年長組のキャリアにはさすがに苦戦するのだろう。
哀れなり中間管理職。俺もそのうち付き合わされるのかなあ?
○月□日 上村の兄ちゃん
ワルサーP38
名門でしかも超有名品。上村の兄ちゃんはメンテナンスをしっかりしてるので整備する側としては助かる(苦笑)
スマートでバランス良し 216mm/800g 装弾数 8+1
弾はセミ・オートにしては少ないがグリップの幅が握りやすく、無駄弾を使わないプロ向け。
9mmパラベラム弾(9mm×19mm)
フルメタルジャケット(レミントン・フィヨッキ社製)
殺傷力十分に有り
フィヨッキ社製の弾の方が若干貫通向け
今日は上村の兄ちゃんが来た。兄ちゃんは神保町に住んでいるので結構仕事以外でもよく見かける。この前は新刊書店で「通販月報」を立ち読みしていた。何でも家に山積みの書物にとうとうカビが発生したので掃除用具&本棚を買う気らしい(笑)。そんなに本を読んでどうする気なんだか。
(後日追記)
この顧客は後日亡くなった。データ収集のために記録だけは残しておく予定。
□月△×日 片倉のおっちゃん
コルト・ガバメントMK−IV シリーズ80
コルト・ガバメントの標準型
ブルー仕上げでやや重め 216mm/1075g 装弾数 7+1
アメリカでは超がつくほどメジャーな銃だが、コルトは弾丸の旋条痕が逆周りで出るので銃が特定されやすい。(何とかならないかな)
.45ACP(45口径)弾(11.43mm×19mm)
フルメタルジャケット(レミントン・フィヨッキ社製)
殺傷力十分に有り
フィヨッキ社製の弾の方が若干貫通向け
今日は片倉のおっちゃんが来て、おばさんと競艇で大騒ぎして帰っていった。おっちゃんとおばさんは世代が近いせいか顔を会わす度にギャンブルで熱くなっている。非常に騒がしい。うるさい。
だけどあんなに陽気に笑う二人も珍しいと思う。俺、おばさんが結婚するとしたらおっちゃんがいいな。エージェントの人たちってなんでみんな独身なんだろう。家庭持ちにはやはりキツい仕事なのだろうか。それはそれでちょっと寂しい。
△月△日 根室の兄ちゃん
S&W M5946(←仕事用)
ダブル・アクションのみでマニュアル・セーフティ無し
ステンレス・スチールタイプ 191mm/990g 装弾数 15+1
いかにも仕事用。使いやすい。
9mmパラベラム弾(9mm×19mm)
あとはワルサーP38の項を参照
S&W M629(←お気に入り)
S&Wのリボルバータイプ
このタイプは重い 238mm/1245g 装弾数 6
強力さが売りなのでモノは使いよう。サイレンサーがつけられない分仕事には向かないと思うが。
.44マグナム弾
ジャケッテッドホローポイント(レミントン社製)
ホローポイント(ウインチェスター社製)
ジャケッテッドソフトポイント(フィヨッキ社製)
破壊力・殺傷力特大
今日は新しいお客がやってきた。名前を根室という。成田の兄ちゃんの弟分にあたるらしい。銃を二丁持ってきたので両方整備してやった。
それにしても、こんなに若いエージェントは初めてだ! 上村の兄ちゃんも若かったけど根室の兄ちゃんはさらに若い。半年くらい前まで高校行ってたんだそうだ。いったいどうやってエージェントだなんていう就職先見つけたのか、俺には想像もつかない。
向こうは向こうでそれよりさらに若い俺に驚くし、おばさんにはいいように遊ばれるしで辟易していた。色仕掛けに動揺するようじゃまだまだ半人前だな。やれやれ。
△月○×日 妙子おばさん
ブローニング140DA
中型で軽く弾数が多い 170mm/650g 装弾数 13+1
女性でも使いこなすのに時間がかからない
.380ACP(38口径)弾(9mm×17mm)
フルメタルジャケット(レミントン社製)
殺傷力十分に有り(護身用の傾向も少々)
今日はおばさんの銃を整備した。近々仕事があるらしい。おばさんはめずらしくゆっくり俺の仕事を見ていた。仕事をしながら今後の進路について話し合った。
「伴也、あんた高校へは行くの? 来年でしょ」
おばさんは俺に高校へ行った方がいいと言う。俺も来年は受験だ。とはいえ、中学へは行っていない。密入国で入ってきた人間には国籍も戸籍もないからだ。存在しない人間が高校へなど行けるものか。
「俺がいなきゃ誰が店を切り盛りするんだよ」
「店なんかやらなくてもあたしが食わせてやるって」
「大体身分証明できないのに高校なんか行けるか?」
「そんなもん成ちゃんに頼めばどうにかなるよ」
「いいよ、別に……」
「よくない」
「伴也。行きたくないって言うなら、それでもいい。だけど戸籍がどうとか、金がどうとか、そういう理由で遠慮するのはよして。あたしだって稼げるんだから。
この国じゃ堅気の仕事するのに学歴が要るんだよ。それに、あんたには普通の生活してほしいからさ」
妙子おばさんは金遣いが荒くて、年増で、化粧が濃い。だけど本当は優しいおばさんなのだと思う。
「なかなか他人のガキにそんなこと言える奴いないぜ」
「でしょ。もっと誉めてへつらいな」
おばさんは余裕の笑みを浮かべてそう言った。
「考えとくよ」と返すと、軽く頭をこづかれた。
高校のこと真剣に考えないといけないなあ。堅気の仕事につくかどうかはともかくとして、高校生の銃工というのは、悪くない。
(紙切れ。ノート2につづく)
「The Agents Extra / 銃工のノート」