鎖とその男に関する記録
Chapter1-3 [1/2]
人が三・四人寝られそうな絹のベッドには赤と金の刺繍がなされている。マリノはベッドの上に倒れ込むと、部屋に通されたバルガスの方を向いて面白そうに笑った。
「奴隷は楽しむためにある。お前のように弱い人間も、またしかりだ」
彼にとってはバルガスでさえ態のいい遊び道具でしかないらしい。バルガスが逆らえないのをいいことに、マリノはくっくっと含み笑いをした。彼が指をぱちんと鳴らすと二人の男が扉を開けて入ってくる。
バルガスははっとした。その後から入ってきたのは、セフェリだった。彼女の顔は蒼白である。誰かの手で施された化粧のせいで、その唇は表情とは裏腹に赤く濡れていた。
「どうだ、この娘は泣き叫ぶ時が一番美しいだろう。花開く前のつぼみに入った美しすぎる花びらだ」
マリノは彼女の前まで歩み寄ると、いきなりその首筋をなでまわした。
「やっ……!」
ますます怯える彼女の顔。がたがたと震えているのが見ていてもわかる。二人の男が部屋を出る。鍵をかける音が聞こえる。
「蝶の羽を削ぎ落としたり、花の花びらを一つ残らず取った後に、隠れていた所がむき出しになるだろ? この少女はそれにまさる。とびきり美しくして、壊した時の素顔がいい」
豚より質が悪い。肥えたいぼ蛙だ。およそ哺乳類の暖かさに欠けている。マリノはセフェリをベッドの上に放り投げると、両生類の目つきでバルガスに笑いかけた。
「まだ壮年の男が幼い少女を犯すところは見たことがないからなあ」
バルガスの背筋にぞっとするような悪寒が走る。暑いのに鳥肌が立った。
「面白いだろうなぁ」
純粋にそれだけが理由なのだろう。彼の良心はとっくに壊死してしまったらしい。バルガスはあえて彼に訊いた。
「マリノ様、私に何をさせる気です?」
「何って決まってるだろ?」
マリノは悠々と椅子にかけて、セフェリを顎で指した。
「犯せ」
感情の全くない声。
二人の身体は凍りついてしまった。
「……俺が……こいつを……?」
バルガスが震えながら首を振る。呼吸がだんだん不自由になっていく。
「どうした。私の力をもってすれば、お前一人くらい簡単に辞めさせてやるぞ」
少女の顔は目にまで血の気がない。喉からは奇妙なうめきが洩れる。
「お前が私の加護を失えば、お前の身分は平民ではなくなるぞ。それでもいいのか? ん?」
鉄の天秤がきしみ始める。アルコールと、極度の緊張が上にのしかかる。
「できない……俺にはできない」
「犯せ。命令だぞ」
「できない、できない! できない!!」
彼はパニックに陥った。マリノは目を細めて立ち上がる。
「なら手本を見せてやる」
冷たい蛙がセフェリを追い詰める。
彼女が蛙の下へ飲み込まれる。
そして……
「やめてぇえぇええ!!」
その悲鳴が聞こえた時、鉄の天秤は音を立てて砕け散った。彼は無我夢中でマリノを彼女からひっぺがし、渾身の力でぶん殴った。
「何をする――」
続けざまにもう一発。大急ぎで彼女の鎖を外し、鉄の首輪でさらに殴る。彼の頭は真っ白になっていた。
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