鎖とその男に関する記録
Chapter3-3 [1/3]
その日はまたしても豪華なお祭りになった。ゴール朝の王宮はそのまま新王朝の王宮になり、あちこちの名士から出されたもてなしの料理で埋め尽くされた。ちなみに彼らの王朝は以後において「奴隷王朝」と呼ばれることになる。
「しかし他の階級の方々はまだこの王朝を良しとしない方が多うございます」
名士の一人がヴィークラムの方に話を振る。彼は酒でなく茶を飲むと昔人に仕えていたころのように話しだした。
「裕福な方々に貧乏人になれと言っているのではありません。ただ今まで人として扱われなかった人々を、人として扱って欲しい。それだけのことです」
名士たちはその言葉にうなずき、彼に次々と質問を投げかけてくる。
「ではさしあたってあの大量の路上生活者をどうなさるおつもりです?」
「治安も悪くなる一方ですな」
「旧王族の過激派もまた反乱を企てているらしいですが」
「税も変更なさるのですか?」
「后を取るおつもりはないですか?」
「王女の婿君候補がいるのですが、一度謁見していただけませんかな……」
王には沈黙は許されない。ヴィークラムはそれらの質問にこう答えた。
「部下と相談しなければなりませんので」
政治家の気持ちがよくわかる。本当はこんなお祭り騒ぎなどやっている場合ではないのだ。ここに並ぶ料理で何人の命が助かることやら。
「おい、こんなことやってても埒があかねえよ。どうする?」
声を潜めてバールに話しかけてみると、彼は表情を変えずにこう言った。
「だったらさっさとお開きにしろ。お前は最高権力者だぞ」
嫌な響きだった。改めて自分の立場を思い知らされる響きだった。
「なんなら俺が言おうか?」
「いや、いい」
大きく手を二回叩いて、ヴィークラムは名士や幹部たちによく通る声をあげた。
「本日はこのような会に来て頂いてありがとうございました! ですがこちらもいろいろと決めなければならないことがございますので、今日はお開きということにさせて頂きます!」
客人たちはそれを聞くとのんびりと帰りはじめた。談笑しながらであるため、どうにも歩みがのろい。
「ちょっと王様ぁ、あんた必要以上に卑屈になってやしないかい? もっと堂々と偉そうに喋んなくちゃ」
客がいなくなった途端にカドゥーミがそう抗議すると、ヴィークラムは仏頂面になって肩を揉みほぐした。
「んなこと馬鹿馬鹿しくてできるか。これ以上どうしろって言うんだ!?」
「それでいいんだよ。地でいっちゃいなって」
「それじゃ何か変な感じしねぇか?」
自分の口に手を当てながら彼は首をかしげ、ぶつぶつといろいろな言い回しを考えてみた。しかしどれもからくり人形の呟きに思えて仕方がない。
「んなことやってる場合じゃねえな。みんな集まってくれ! とりあえず腹の減った連中を何とかするから、何かいい案あったら出してくれよ!」
幹部たちが苦笑しながら集まってくる。何とも働き者の王様だった。気品や華やかさはないが、無地の服のように飽きのこない王様だった。
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