鎖とその男に関する記録
Chapter3-9 [1/3]
ヴィークラムは謁見の間にいた。国王たるもの民衆なしには生きられない。彼も暴君にならないようにするためには毎日民衆の声を聞く必要がある。
「そうか。何とかしよう」
「聞かせてくれてありがとな」
「そんならあいつに相談してみろ」
人々はそんな風に親身になってくれる王に対し心を開いていった。税が重ければ食べ物が高くつく。政策や法律が悪ければそこへ悪人がのさばる。温室育ちの貴族や王族と違って彼はそれをよく知っていた。結果として、彼はそれまでの王族たちより遥かに良い政策を布いた。人々はますます彼を支持した。
ところがその日は民衆の声がおかしかった。誰もが口を揃えて薬がないと言う。約束が違うじゃないかと言う。しかし部下に問い合わせてみると、そんなはずはないと言うのだ。
「んな答えを期待してるんじゃねえよ。さっさと原因を調べろ」
部下たちは慌てて外へと飛び出していった。それとは逆に、一人の部下が入ってくる。
「陛下。まだ民衆が外にたむろっておりますが、その中に謁見したいと申し出た者がいまして」
「事情を説明して明日にしてもらえ。薬の方を片付けにゃならん」
ヴィークラムが立ち上がると、部下はそれでも引き下がれないのか縮こまって話を続けようとした。
「……それが、その者が奇妙なことを……」
「何だ?」
部下は言ってもよいものか迷った。単なる狂言だったら呆れられ、時間の無駄だと言われるに違いない。それくらいわけの分からない言葉だった。
「早く言え。急がにゃならん」
部下はそう言われると自信がなさそうな顔をして、それでもはっきりこう言った。
「じゃあ、伝言をそのままお伝えしますね……『マリノ・マリーニが薬の件について話したいことがある。バルガスという男に会わせてくれ』……だそうです」
そして部下は珍しいものを見た。
王が立ちすくんで呆然としているのだ。度肝を抜かれた王様など、初めて見た。何をそんなに驚いているのだろう。そもそもマリノ・マリーニやバルガスとは誰だろう?
「……陛下、いかがなさいますか?」
王は伝言に比例して奇妙なことを言った。
「そいつだけ部屋に案内しろ。できるだけ内密にだ。他の奴は何人たりとも入れるな」
いつもの明朗な王ではなかった。
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