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1:Lio Beacious [1/2]


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報告(1) Lio Beacious
性別:男 年齢:10歳 血液型:B
職業:-
住所:カリフォルニア州サンフランシスコ
誕生年月日:1983年-月-日

被験者は8月10日にサンフランシスコ市内で保護を受け、
8月13日に当研究所に輸送された。
その詳細は……



「リオぉ、お前もキメるか? 気持ちいいぜ」
「俺はやらない」
 リオはかたくなに首を振った。目の前で麻薬に溺れ、光を失った友人を見るととてもそんな気になれなかった。
「何ダセぇこと言ってんだよ。お坊っちゃんにでも出世したのかぁ?」
「馬鹿言えよ」
 そう言うリオの瞳にも光はない。
「人生なんて糞まみれだ。そういうもんだろ」
 人生を見透かす、暗く傷ついた瞳。それが十歳のリオの姿だった。

 家から逃げ出したのは一年前。家では毎日死ぬほど殴られ、生きているのが辛かった。殴るのはアルコール中毒の父親。母親はそれを黙認していた。あの冷たい四つの眼を忘れたことはなかった。
 あのまま家にいたら死んでいたであろうことをリオは疑わない。ストリート・キッズになったことにも、後悔はない。古い服、垢の浮いた体、すさんだ二つのあかり。
「金よこせよ」
 たかりや窃盗は日常茶飯事。それでも、リオは一つだけこだわりを持っていた。麻薬はやらない。自分を捨てることだけはしない。まだ死にたくない。彼にとって麻薬は自殺でしかなかった。

「リオおにーちゃん!」
「あそんでー」
「リオ、また来てくれたのか。わしゃ嬉しいよ」
 リオの汚れてすすけた髪を撫でてくれる、しわくちゃの手。見上げてくれる、たくさんのつぶらな瞳。
「ターナーさん、飯食わせてくれよ」
 リオは図々しく笑った。ターナーさんは孤児院を切り盛りしている老人である。ストリート・キッズたちは妙なところでプライドを持っているので彼とは付き合わないが、リオは例外だった。
「ターナーさん俺を見下さないからな」
 古びたフランスパンをかじりながら彼はそう言うのだった。



「リオ、お前も気をつけた方がいいぞ」
 珍しく心配そうなターナーさんの顔を見て、リオはぶっきらぼうな顔つきになった。
「俺ってそんなに弱く見えるか?」
「そういう問題じゃない」
「じゃどういう問題だよ」
 ターナーさんは子どもたちが遊ぶのを不安げに見ている。
「……この辺で誘拐が増えてるそうだ。それもストリート・キッズたちが狙われてるらしい」
 リオはフランスパンをかじるのをやめた。
「俺たちを売り飛ばす気かな?」
「わしにもわからん。だが警察に通報する奴もいないし、犯人からの連絡もない。何にもわからないまま気がつくと子どもが消えている。ただ、”子どもたちだけが消えていく”」
 ほんの少し寒気がする。
「……まさか。俺たちだってヤバいのは慣れっこだ。そう簡単に捕まったりは……」
「お前だけでも気をつけろ。わしはお前の身が心配だ」
 自分を心から心配してくれる視線。ずっと、見たことのなかったもの。
「大丈夫だよ。俺は捕まらない」
 リオは不意に笑ってみせた。どこか虚勢を張った笑いだった。

 一ヶ月後、リオは仲間から話を持ちかけられた。
「おい、今度ガススタンド襲うの手伝わねぇか?」
 いつもは誘ってこない年上グループからの誘いに、リオは眉をひそめた。
「なんで俺なんだよ。おとりにでもすんのか? ごめんだぜ……?」
「まぁそう言うなよ。この前手ぇ組んでた奴が消えちまってさ」
 消える、という言葉。ひっかかるものを感じる。
「他の奴でいいだろ。よその溜まり場行けよ」
「行ったよ。そうでなきゃお前なんかに声をかけたりしねえ」
「断られたのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
 仲間の顔が気味悪そうに曇った。どんなにイキがっても、少年は、不安に襲われればすぐ分かる。リオはそのことをよく知っている。
「……他の奴がいねえんだよ。……そりゃ、何人かは残ってたぜ? でも、そいつらみんなヤク中のひどい奴らばっかでさ、使えそうなのはみんな消えてた」
 どんなにイキがっても、少年は、不安に襲われればすぐ分かる。
 リオは思わず眼を瞠った。仲間たちは怯えを隠してひきつり笑いを浮かべている。
「声かけるの、お前で何人めかな? いくら話を成立させてもよ、次の日には消えてる。
 お前は……消えるなよな?」
 そのまま去っていく仲間たちの背中を見て、リオは動けない自分に気づいていた。手のひらが汗ばんでいるのがわかった。

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