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2:Fanny Cuse [1/2]
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報告(2) Fanny Cuse
性別:女 年齢:28歳 血液型:O
職業:無職
住所:ウィスコンシン州ミルウォーキー
誕生年月日:1965年7月18日
被験者は2月23日にミルウォーキー刑務所で受刑し、
2月23日に当研究所に輸送された。
その詳細は……
「所長、またファニィの奴が……!」
「何だ。何をやらかした」
所員は怖じ気づいたように、震える声で所長に言った。
「看守の手に噛みついて重傷を負わせました。看守は肉を食いちぎられてパニックに陥っています」
所長は溜め息をついて吐き捨てるように言った。
「独房だ。一ヶ月ぶち込んどけ」
不機嫌そうに囚人の履歴書に目を通す。
【死刑執行日 二月二十三日】
死刑執行まであと六十日。
灰色むき出しのセメントの壁。小さな窓にはめられた鉄格子。冷たくて何も語らない空気。およそ二メートル四方のその独房の隅で、ファニィはじっとうずくまっていた。
囚人服に身を包んでいても、人は彼女を美しいという。ショートヘアでつり目の顔には妖しげな美しさがあった。だが人々は知っている。それは狂った心の裏返しなのだと。
かつて全米を騒がせた猟奇殺人事件。三十人もの男性が殺害され、ある者は手首から先を切り落とされ、ある者は両目をえぐり取られて発見された。三十人が三十人とも違った部分を失って発見され、共通項は無し。
……否、一つだけ共通項があった。多くの目撃情報はこう言っていた。
「あいつは死ぬ前にショートヘアの美人と歩いていた」と。
刑事はファニィの部屋に入った時、その光景に血の気が引く思いがした。ファニィはうっとりした顔で彼を見て、妖しく笑った。
「ねぇ、あたしの作品って綺麗でしょ? いいところだけ選りすぐって作ったのよ。……綺麗……」
今まで行方不明になっていた体たち。肉の腐る臭いを消すように、部屋には甘いロウの香りがむせ返るほどたちこめている。それらは節々で縫い合わされて一つの人形と化していた。壁は血がべっとりと付いて赤黒く、天井も床も黒ずんだ赤一色。その真ん中に節々から腐り始めている人形が吊るされている。ファニィはその前で夢心地で座っていたのだった。
「あんたの耳って綺麗ね。それ、あたしにちょうだいよ……いいでしょ?」
刑事はファニィに手錠をはめた。彼女は心底不思議そうにそれを見ていた。人形が腐らないか、それだけが心配だった。
夜、独房からは女の金切り声が聞こえてくる。壁を叩き、ベッドのシーツを引き裂き、のたうちまわる音。毎晩ファニィが叫ぶので、看守や囚人は気が気でなかった。
「ファニィ・キューズ! やめろ!」
「あたしをここから出せぇ!!」
暴れ回るその姿はまさしく禁断症状そのもの。
「あたしの人形を返せぇ!!」
夜のファニィに会ってはいけない。過去に三人の看守が彼女の犠牲になり、どこかの肉を食いちぎられた。彼女は食いちぎった肉片を抱くとやっと眠った。ところが翌日には肉片は取り上げられ、ファニィはまた叫び出すのだった。
朝、女性の看守が独房のドアを開けると、ファニィはまた部屋の隅でうずくまって眠っていた。ベッドのシーツ、毛布、囚人服は全てぼろぼろに引き裂かれて散らばっている。彼女は下着姿のまま看守の方に顔を上げると、力無く笑った。
「またやっちゃったよ。替えの服くれない?」
朝が来るとファニィは正気に戻る。いまや看守の間では常識だった。
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