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3:Nick Indist [1/2]


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報告(3) Nick Indist
性別:男 年齢:35歳 血液型:O
職業:米陸軍第4小隊隊長
住所:アーカンサス州リトルロック
誕生年月日:1958年10月5日

被験者は5月26日に米軍リトルロック基地で身柄を拘束され、
5月27日に当研究所に輸送された。
その詳細は……



 アーカンサス州を襲ったハリケーン。その後の住民救出作業を終えてリトルロック基地に帰ってきたニックは、その日シュミッツ大佐の召集命令を受けた。各部隊の隊長たちの前で、大佐は一言こう言った。
「諸君らには中東へ行ってもらう」
 ……いわゆる「湾岸戦争」である。ニックは自分の部隊の方へ帰りながら一人たそがれていた。
「人助けの後は人殺しかよ。それが軍人の運命……か?」
 煙草の煙が明るい夜空に昇ってゆく。先っぽの火は戦場を暗示して赤く光っていた。

「今度の戦争はすぐ終わりそうですね」
 ニックの部下は沈重な面持ちでそう言った。
「ああ。兵器が前よっかずっと良くなってるからな」
 ニックは兵器のリストを読みながらあっけらかんと吐き捨てる。
「ひでえ世の中だ。ボタン一つで何万人も庶民を殺すのが正義の味方と来ちゃあな」
「隊長、そのような言動は……」
「わかってる。すまねえ」
 彼は軍隊の中でも人情に厚く、多くの隊員の人望を集めていた。ただ、そのせいか戦争になると「軍紀違反」の言動が増えるためなかなか少佐から上には昇進できない。
「人殺しにビクついてちゃ上にゃ行けねえ。だから俺はここがせいぜいさ」
 ニックは苦笑しながらリストを閉じた。

 ヒューストン、米軍研究所。ニックは兵器のリストを抱えて車を降りた。
「隊長、わざわざ来なくても文書で送ってもらえばいいじゃないですか」
「俺は物覚えが悪いんでな」
 ニックは研究所に入ると、身分証明書を見せて受付に言った。
「博士に面会をお願いしたい」



「少佐はわからないことに対して徹底的ですな」
「部下の命がかかってますんでね」
 ニックは兵器のリストを抱えて席を立った。
「ご協力ありがとうございました。……もう少し調べ物をしていってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。資料室は廊下をずっと行って左です」
 好意的な博士の声。一礼してニックは廊下に出た。白く塗られた壁に、滑るか滑らないかくらいに磨かれた床。足音がコツコツと響きわたり、廊下の突き当たりが見える。左を曲がって彼は資料室に入ろうとした。
 そこへ事件らしき物が走ってきた。
「助けてくれ!」
 男の悲痛な叫び。ニックは今来た突き当たりの向こうから、若者が走ってくるのを見た。白い病院患者用の服に、古びた血が鮮やかだった。若者は裸足で、死に物狂いで彼の前まで走ってきた。充血した瞳。懐かしい表情。
「助けてくれ! 殺される!」
 ――あぁ、そうだ。こいつは戦場の人間の顔だ。殺人者は側にいるんだな?
 足音が聞こえてくる。どんどん近づいている。一つではない。
「絶対動くんじゃねえぞ!」
 ニックは咄嗟に資料室のドアを開けて、若者を中へ押し込んだ。すばやくドアを閉め、廊下に視線を戻す。足音が大きくなったかと思うと、すぐに数人の科学者たちが彼の視界に現れた。
「誰かこちらへ来ませんでしたか?」
「若いのがあっちの方へ走ってったみてえだが……」
 彼が右の方の通路を指差すと、研究者たちは猛スピードで走り去っていった。こうして、事件の一端が通り過ぎた。
 辺りに誰もいないのを確かめてから、こっそり資料室に入る。資料室は一人を除いて無人だったらしく、薄暗かった。
「追っ手は撒いた。もう大丈夫だ」
 若者は本棚の裏でがたがた震えている。明かりをつけてやるといくらか落ち着いたようだった。
「何なんだ、一体? ちゃんと説明しろよ。俺に分かるようにな」
 ニックは若者の前に座り込んだ。

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