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4:Stela Plecia [1/2]


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報告(4) Stela Plecia
性別:女 年齢:7歳 血液型:A
職業:学生
住所:ワシントンD.C.
誕生年月日:1986年4月27日

被験者は11月15日にワシントン国際空港で身柄を拘束され、
11月17日に当研究所に輸送された。
その詳細は……



「ステラ、元気でね」
「うん。あっちに着いたら手紙書くね」
 ステラは急に学校を出なければならなくなった。母の仕事の都合で。まだ入って六ヶ月と少ししか経ってないのに。
「ステラ、ごめんね」
「いいの。もう大丈夫だもん」
 彼女は荷物の入ったリュックを背負うと、おもちゃのペンダントを首から下げて靴を履いた。
「ルー君、行こ」
 小さな犬のぬいぐるみの「ルー君」をしっかり抱きかかえ、レンタカーに乗って窓を開ける。行き先はワシントン国際空港。

「広ーい!」
「ステラ、手離しちゃだめよ。空港はとっても広いから、迷っちゃうかもしれない」
 ステラは初めて空港に来て、そのあまりの広さにはしゃいでいた。母親が搭乗手続きをしている間もあたりをきょろきょろ見回して見たままを喋り続けている。何とも嬉しそうな顔つきだ。
「お母さん、あのくるくる回るパネルなあに?」
「見て見て! スチュワーデスさんが歩いてるよ!」
 母親はやれやれといった顔で搭乗手続きを終えると、彼女を引っ張ってファミリーレストランに入った。ステラは店員に案内されるとすかさず二人掛けの席に座り、膝の上にルー君を置いた。
「ステラは何食べる?」
「うーんとね、ハンバーグと、スパゲッティのどっちがいいかな」
 目をくるくるさせ、ルー君と相談すること三分。
「旗、こっちの方が好きだからハンバーグセットね」
 メニューにはアメリカとフランスの旗が刺さっていた。

「お母さーん、わたしフランス語なんて話せないよぉ」
「大丈夫よ。英語は万国共通だし、ステラは子どもだからすぐにフランス語も覚えられるわ」
 母親はラザニアを食べながらほほえんでくれた。ステラはおもちゃのペンダントをいじっている。ピンクの、プラスチックのハート型のコンパクトだった。
「ステラ、それ何だっけ?」
「あのねー、これは”おとめのみだしなみ”セットなの」
「へぇ、お母さんにも見せてくれる?」
 彼女がコンパクトをテーブルに乗せて開けてみせると、中にはビニールコーティングされた鏡や、おもちゃの指輪、ヘアピン、花のついたチョーカー、それにビーズの腕輪なんかがごちゃごちゃと入っていた。
「ステラはおしゃれに気を遣うのねぇ。将来美人になれるわ」
 母親はヘアピンを手に取りながら彼女を褒めた。
「そうだよ。わたしね、大きくなったらすてきなパリジェンヌになるんだから」
 ヘアピンを返してもらうと、ステラはそっとコンパクトを閉じた。



「お母さん、まだ飛行機乗れないの?」
 ステラは出国手続きの順番待ちをしながらルー君と遊んでいた。母親はすまなそうに彼女を見る。
「ごめんね。もう少しだから」
 順番はすぐに回ってきた。母親はパスポートを出し、審査官と話をしているらしい。
「ステラ・プレシアさん?」
 審査官に呼ばれ、ステラは手を挙げて「はーい」と声を上げた。他の順番待ちの人々は顔をほころばせた。彼女はそれが嬉しくて審査官の顔をそっと見上げた。
 ……が、審査官は笑っていなかった。
「どうぞ」
 パスポートが無愛想に返される。母親はそれを受け取るとそそくさと歩き出した。ステラは手を引かれながら母親に訊いた。
「どうしてあの人怖い顔してたのかなぁ?」
 母親は答えなかった。

「飛行機のイスって、こんなにせまいの?」
 ステラはふくれっ面でシートベルトをつけ、ルー君を膝に乗せた。
「そうよ。ステラは気に入らない?」
 母親の質問に彼女はこくこくうなずく。
「テレビとかじゃ、もっと大きくてすごいイスじゃない。なんか、こう、倒してさ、はぁーってくつろげるようなの」
「ビジネスクラスっていうのよ、それは」
 母親はくすりと笑って、ステラの横にある小窓を開けてくれた。
「ほら、外が見えるよ」
「あ、ホントだ……いろんな車があるね。大丈夫かな?」
「どうして?」
「だってほっといたら飛行機にみんなはねとばされちゃうよ」
「……大丈夫よ。みんな飛ぶ前には上手く逃げるから」
 ステラと母親はしばらく窓の外を眺めていた。母親の言った通り、車は実に巧みに逃げていくのだった。
 その時。
「プレシアさん。申し訳ありませんが、こちらへご同行願います」
 くろふくのおじさんたち。ステラはそういう人間に初めて出会った。何が起こったのか全くわからなかった。

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