Disk1
4:Stela Plecia [2/2]


 空港の一室で、ステラはイスに座って不安げにルー君を抱いていた。
「お母さんはどこにいるの?」
「隣の部屋で取調中だよ」
 目の前には中肉中背の黒服が立っている。「それ」と検査機以外には何もない部屋だった。ステラはイスから降りると、あちこちの壁に耳をぴったりとつけて音や振動を聞こうとした。
 ……何も聞こえない……何も聞こえない……何も……
「あれをどこへやった!」
 彼女ははっとして思わず耳を押しつけた。男の怒鳴り声がする。母親の声はない。
「……そうですか。お嬢さん、どうなってもよろしいんですか」
「や、やめてください! あの子は何も……」
 やっと母親の声が聞こえた。しかし、この怯えようは何なのだろう……。
「お嬢ちゃん」
 ステラが振り向くと、男は単刀直入に言った。
「持ち物を見せてくれるかな?」
 半ば強引にリュックがもぎ取られ、検査機にかけられる。
 ――反応はなかった。
 それでも男はまだステラの方を冷淡に見ている。
「そのぬいぐるみと、首にさげているものもだ」
 こわい。
 彼女は恐る恐るルー君とコンパクトを男に渡して、それらが検査機の中を通っていくのを見て……音を聞いた。
 大きい、嫌な電子音。子どもにだってわかる。「反応」の音。
 男がいきなりコンパクトをひっつかみ、中身をぶちまける。かわいらしいおもちゃのアクセサリー。ステンレストレーの上で宝物が犯されていく。
「だめぇ!」
 ステラは男の袖をひっぱり、必死になって阻止しようとした。男は彼女など眼中にない。一つ一つ中身を調べ、ヘアピンを調べたところで手を止める。
 ヘアピンには黒いチップが付いていた。男はチップを剥ぎ取ると抵抗していたステラを突き飛ばし、さっさと部屋を出て鍵をかけてしまった。残されたステラは泣きながらトレーの中身をかき集め、一つ一つ服の裾でぬぐってからコンパクトにしまった。
 ――かわいそうなステラ。
 ルー君は検査機のベルトから送り出され、床に逆さまに落っこちたままでそれを見ていた。

 しばらくして、男が帰ってきた。
「お母さんにはいつ会えるの?」
 ステラは泣いて赤ずんだ目で男を見た。
「後で会えるよ。それまでは好きにしていなさい」
 ただし、部屋から出るな。……男は無言でそう言っている。彼女は仕方なくまた壁に耳をあて、目を閉じた。
 …………
「あんな所に隠してあったとはな」
「お願い、あの子には手を出さないで!」
「じゃあ言え。どこに雇われた?」
「……(小さすぎてわからない)……」
「そうか。もうお前に用はない。……来てもらおうか」
「……あの子にはもう会えないの?」
「え?」
 ステラはびっくりして耳を離した。
「ねぇ! お母さんにはいつ会えるの? すぐなんでしょ? ねえ、おじさん、あえるんだよね!? ねぇ!?」
「ああ、すぐ会えるさ」
 ――ステラ、あぶないよ……
「お嬢ちゃんも消されたんだからねぇ」

 ――あぁ、ぼくのいしきもとおのいていく。ステラのあたまがへこんじゃった。ごめんね、まもれなかった……。

 ステラは銃のグリップで数回殴られ、その場に崩れ落ちた。落ちてきた彼女の体と冷たい床に挟まれて、ルー君の頭は、潰れた。

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