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6:Billy Maiyer [1/2]
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報告(6) Billy Maiyer
性別:男 年齢:22歳 血液型:AB
職業:大学生
住所:ジョージア州アトランタ
誕生年月日:1971年1月25日
被験者は4月12日にアトランタ市内の自宅で事故に遭遇し、
4月14日に当研究所に輸送された。
その詳細は……
ビリーは大学生の仮面を被っている。
「メイヤーさんって頭いいですよね。何でそんなに物知りなんですか?」
知能指数は学内でもトップレベル。顔立ちも申し分ない。どの角度からどう見ても彼には上流階級の気品がつきまとっている。
「いろいろやってるうちに覚えちゃうんですよ。面白いから」
彼の趣味はパソコンをいじることである。表向き、それは彼の知性の源であるように見えた。彼はいつも理性的だった。しかしながらこれまで彼の自宅に入った者は一人もいない。
機械の塊の中でビリーは生きていた。改造し過ぎて原型をとどめていないパソコン、血管のごとく部屋を巡るコードの山。ベッドの上にまで積んである怪しいソフトやキーボード。ソフトはどれも無造作にワープロで打たれたシールが貼ってあるだけで、ビリーはこれで生計を立てていると言っても過言ではない。一仕事終えるたびに入る破格の収入は、ほとんど生活費と改造費に回ってしまう。
「○○社○○年度計画」「○○社○○機器製造プログラム」……これらのデータから防衛プログラムを非合法的に取り除き、暗号化されたデータを解読する仕事。ビリーはその手のプロフェッショナルだった。依頼主たちは彼をこんなコードネームで呼ぶ。
「黒の達人」――「Black.Master」と。
「B.M」と書かれた小包には一枚のディスクが入っていた。こういう場合依頼主が要しているのは「ビリー・メイヤー」ではなく「黒の達人」である。
「それじゃあ軽く見てみますかね」
ビリーはディスクをパソコンにかけた。
彼自身、この仕事は嫌いではない。社会のあらゆる悪の痕跡や隠された事実の数々を暴き出すことは……たとえそれが正当な手段ではなくても、彼にとって病みつきになる仕事だった。
「化けてる化けてる。じゃあ剥がしにかかりますか」
ビリーは特製のプログラムにデータをかけた。数列の山が画面を駆けめぐる。一桁ずつ左へ消えていく文字。やがて画面が黒くまたたく。
「分析完了」
ビリーはにやりと笑った。
ビリーは意外にも携帯電話を持っていない。自宅の電気器具の電磁波が強すぎて使えないからである。彼の家にある電話は古くて頑丈なボタン式の有線電話ただ一つだけ。クリーム色の古めかしい電話は、けたたましい音を立てて電脳屋敷の主人を呼んでくれる。ビリーは仕事を止めて受話器を取った。
「もしもし」
「仕事だ、”黒の達人”」
彼の目つきがにわかに変わった。
喫茶店のある一席でビリーはコーヒーをすする。その前で、真っ白な髭を生やした老人が紅茶をすすっている。
「どんなに難しい仕事でもやるそうだな」
「ええ。奥さんの家計簿でも企業秘密でも」
「政府の機密事項でも?」
……喫茶店の中にはいつもの空気が漂っている。幸せそうなカップルや、笑い話にふける若者たち、それにノートパソコンを連れた女性。きっとこんな開けっぴろげな依頼をするからには裏の人間も少なからずいることだろう。
「やりますよ、条件次第で」
「条件? 金ならいくらでもあるがね?」
「それは当然です。加えて、あと一つ」
ビリーはいつものように依頼人の瞳をじっと見つめた。
「目的は手段を正当化しないと言いますが……」
老人の瞳は紳士的で、冷静である。ビリーはこの相手を自分にふさわしいと見てとった。
「……目的を教えて欲しいんです。それが僕の主義ですから」
ほら、殺気が飛んできた。
老人がそれを制御しているのが分かる。
「よかろう。われわれが知りたいのはただ一つ」
テーブルの上にいつものように無名データが置かれた。
「国家の犯罪だよ」
ビリーは一瞬その仕事をありふれた依頼と感じた。老人が背を向けた頃、彼は不意に凍りついた。
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