Disk1
6:Billy Maiyer [2/2]


「エラー発生、分析不能」
 数十回目の機械的な報告を見て、ビリーはとうとう席を立った。
「Shit!!」
 乱暴にドアを開け、台所のカーテンを全部開けて、出しっぱなしの菓子パンをむさぼる。大学は無断欠席、徹夜、買い物にも行かない。彼は無精髭も剃らないで画面に向かっていた。目が痛い。色覚がおかしくなりそうだ。
「仕事はどうだ?」
 あたりさわりのない電子メール。
「僕もなめられたもんだ……!」
 ビリーはベッドに倒れ込むと、引っ込みのつかない気持ちのまま強めに閉じた目を揉みほぐした。
 ここまで仕事がはかどらないのは久しぶりだった。今までの仕事は大体同じパターンの偽造プログラムかそれらの組み合わせで解けるパズルのようなものだったが、同じ言い方で言うならこのディスクは恐ろしく複雑な組み方のパズルか、もしくは未知のパズルだった。そしておそらくはその両方。
「もっと報酬ふんだくっときゃよかったな……」
 だが「黒の達人」の真骨頂はここからが本番のはずだ。
「仕方がない」
 まだ頭が戦いたがっている。ビリーは画面に向かって新たなプログラムを作り始めた。



「一部分析終了。83%のデータが未完成」
 その一文が出た時、ビリーは両腕を宙へ突き出した。
「来た来た来た来た来たっ!」
 とうとう一歩前進。ところが、リターンキーを押して彼は驚愕した。
「機密レベルAAA。資格無き者の立ち入りを禁ず。パスワードを入力せよ」
 ――化けの皮が剥がれたと思ったら、えらいものが出てきた。それが彼の素直な感想だった。
「ここまでして、何を隠してる?」
 ビリーはパソコンに使い込まれたコネクタを差し込むと、つながれたキーボードに疲れの濃い指で何か入力した。画面を流れる数字の山。一桁ずつ消えていく文字。そして……
「パスワード登録済。第二次防衛プログラム解除。79%のデータが未完成」
 4%のデータが姿を現した。

[(1) passward 登録済]
Lording...

[IH計画報告書の作成について]
 聞いたこともない計画である。
[本計画は国家の繁栄およびその安泰のために必要なものであり、機密の絶対保持が要求される。この計画を実行し報告書を作成するにあたっては重大な責任をもって臨むように。
 報告書を閲覧する際には新たにパスワードを入力せよ:]
 ビリーはパスワードを後回しにしてその先を読み進めた。言葉は無表情で語る。
[IHに関する概略 兵器レベルB 強化人間に近い能力を持ち、よりローコストでの改良が可能。また、実験段階において対象の生死を問わない点が大いに評価できる。]
「……兵器?」
 彼はさらに文を進めた。
[被験者は主に国家にとって有害な人物を対象としており、実験を行う際に被験者は全ての記録を抹消される。]

 彼がそれ以上先を読んだかどうかは定かではない。
 なぜここで結果論に移るのか? 記録が無いからである。

 四月十二日、深夜。二人の男がチャイムを押すと、中からやつれ果てたビリーが顔を出した。
「やりすぎたな、”黒の達人”」
 男たちが小さな銃を突き出し、ビリーは両手を挙げながら呟く。
「そうやってあなた方は何人殺してきたんですか?」
 男たちは何も言わずにビリーを車に押し込んで、きえた。その後の彼の消息は誰も知らない。

 ――主を失ったパソコンは中身をコンピューターウイルスに食い荒らされて、今はただ雑音をまき散らすばかり。
 四月十二日、深夜。一通のメールに入っていたウイルスがビリーにこう言った。
「お前は消された」
 ビリーはパソコンのデータもろとも痕跡を抹消され、戻ってくることはなかった。

次章[#] 前[*]
戻る[1]
Copyright © 2009 桔梗鈴