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7:Houmei Kim [1/3]


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報告(7) Houmei Kim
性別:女 年齢:17歳 血液型:B
職業:風俗業
住所:テキサス州ヒューストン
誕生年月日:1976年6月19日

被験者は12月24日に当研究所で身柄を拘束された。
その詳細は……



「どうか私を買ってください」
 娼婦がいる。人は彼女を哀れみ、軽蔑する。
 ホウメイはつたない英語で道ゆく男たちに声をかけ続けた。クリスマスが近い。もっと客を取って稼がなければ。
「安いです。それに、サービスします。買って……」
 いつから自分はこんなに堕ちてしまったのだろう。遠い異国の地で家族を食わせるため娼婦に身をやつし、夜毎数人の男たちに身をゆだねる。一日一人だなんて贅沢は言ってられない。二人や三人、この時期は五人六人に身体を売る必要がある。客引きをしながら眺める通りには、自分と同じ年の女の子たちが楽しそうにおしゃべりをして歩いている。
「お願い、買ってください。わたし若いですよ」
 十七歳の輝きは他人の中にしか見えなかった。

 その日の三人目の男は若くてインテリなように見えた。やることはいつものようにすませる。もう痛覚は麻痺している。
「君、どこの出身? ……何を見てるの?」
 モーテルの壁を埋め尽くす蝶の模様。ホウメイはその絵がアジアのものだと知っている。
「……私は、香港から来ました……」
 疲れ切った身体で見る夢はいつでも布団のように優しい。
「……蝶は好きですか?」
 男の視線の先でホウメイは素顔をさらけ出した。安っぽい化粧が、すっかり剥げ落ちてしまっていた。
「まあね。僕はその関係の仕事をしているから」
 男の仕事なんてどうでもいい。この気持ちをほんの少しでも分かってくれるなら。
「私、蝶が好きなんです。あんな風にきれいな羽をはばたかせて自由に飛んでいられたら、きっと幸せなのに」
 この娼婦、自分が抱いていたときは笑わなかったのに、ほんの少し微笑んだ……。
 男は思う。自分の見ていない少女の本質を。
「そうだな。俺だって、何もかも忘れて自由になりたいときがあるよ」
 そう思いながら、財布で夜が明けていくのだ。

 その次の夜、男は再びホウメイの前に現れた。
「また、いいかい?」
「ええ。行きましょう」
 互いに相手の名前は知らない。たいして喋ることもない。ただ、二人でいると不思議と何も考えずにいられた。
 男はいつしか彼女の常連になっていた。まだ名前も知らないのに。

「それ、やるよ」
 ある日、男はホウメイに小さな包みをくれた。
「何ですか?」
「いいから開けてごらん」
 ……この人は、私の前でこんなにわくわくしてる……。
 彼女はおずおずと包みを開けた。そのまま中身を見て、まばたきをして、立ち止まる。
「仕事がてら作ったんだ。いつか蝶が好きって言ってたろ? 君が持ってた方が蝶も喜ぶ」
 たった一匹の、紫の蝶の標本。
 別に何か祝うわけでもない。下心と言うにはあまりに質素で、きっと他の娼婦なら捨ててしまうような安っぽさだ。
 ホウメイは何も考えなかった。蝶が好きなことを覚えていてくれたのか。そう思うと、男の普通の微笑みがこたえた。

「どうした? 何か気にさわったか?」
「……ありがとうって、言えるからです」
 標本の上に説明できない涙がこぼれた。うんと嬉しいのかうんと辛くなったのかもわからない。
「ごめんなさい、行かなきゃいけないのに」
 涙で化粧がまた剥がれてしまう。男は彼女の素顔に参ってしまった。
「いや、今日はいいよ」
 この少女を愛するなら、ベッドに連れていくべきではない。そんな考えが男の頭をよぎる。
「それよりその辺で飲もう。もっとゆっくり話がしたい」
 ホウメイは思いがけない言葉に目をぱちくりさせた。男はやっぱり普通の顔で微笑んでいた。

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