Disk1
7:Houmei Kim [3/3]
十二月二十四日。クリスマス・イブ。その夜に、ホウメイは研究所の前に立っていた。新しいワンピースを来て、素顔に薄い口紅だけ塗って。
「Merry X'mas」
……味気ない研究所の入り口に吊られたイルミネーション。そのまま中に色とりどりのランプが続いている。粗末にも思えるほど小さくてまばらな光の道。ホウメイはマフラーを抱えてゆっくり進んでいく。期待で心が洗われて、夢が膨らんだ。ランプはある扉の中へ入ってそこで切れている。
……あ、来てくれたんだ。
そう言ってくれるのが楽しみだ。このドアノブをひねって、私は一晩の夢に浸る。そしたらもう帰れなくても構わない……。
ホウメイはそっとドアを開けた。
……会議室らしき大きな部屋。大きなテーブル。その片隅に、小さなケーキと紅茶のポットが置かれている。ジョージは居眠りをして待っていた。テーブルに突っ伏したまま、手に何か握りしめている。どこか愛らしい寝顔だった。
……ジョージさん、待ちくたびれたのかしら?
ホウメイは彼を起こさないようにドアを閉めて、笑いながら彼のすぐ前まで歩み寄った。
「ジョージさん、起きてください」
彼は死んだようによく眠っていた。とてもいい夢を見ている子どもの肩を揺すっているようだ。しかも相当によくできた夢らしい。
「もう。起きてください。一緒にお祝い……」
揺すり続けていると、手がだらりと落ちた。銀の光が床に垂れた。彼は起きない。
「ジョージ……さん?」
ドアが開いて、人が駆け寄ってくる……。
……いつか、蝶が好きって言ってたろ?……
どうしてこんなことになったのだろう。どうして二人の夢に知らない人が現れて、私に薬を嗅がせる?
意識が失われていく中で見た銀の光。ペンダントのチェーン。手に、小さな小さな紫の蝶が絡みついていた……。
気がつくと、密閉された部屋の中だった。
……自分の記憶がない。どうやら本能だけの脳に知性を与えられた生き物のようだ。背中に透き通った羽が生えている。これでいいような、悪いような。どうして手足が四本なのだろう。六本ではなかったか?
不気味な身体だ。肌色でぶよぶよしている。こんな身体ではなかったはずだ。私は、もっと黒くて固くてつやつやした強い生き物だったはずだ。私は、私は……
……わたしは、なにもの?
本能の記憶が空腹を告げた。目の前に、紫の羽を持った奴が倒れている。こんな時はどうしていたっけ?
(食う)(食う)(食う)
そうだ、他の虫を食べるんだった。さっそくいただくとしよう。……おいしいな。やっぱりこれは食べていいものだったんだ……。
その時、固いものが歯に当たった。見てみると、小さなきらきら光る石のようだった。こんなものを大切そうに握って、この蝶は一体何をしようとしてたんだろう?
……「蝶」?
そう、これは「蝶」という生き物だ。でもどうして私がそんなことを知っている? 頭が痛い。記憶が、弾ける……!
「……蝶の、ペンダント? ……私は、私は……!?」
私は虫じゃなかったか、いや人間だったような気がする。どっちが本当だかわからない。両方本物の記憶だ。でも、この顔はまさか……!
「嫌、嫌、嫌ぁあああ!」
私が食べたのは誰?
「私は誰!? 虫? 人間? 教えて、私が食べたのは誰!?」
人間が注射器を持って入ってくる。記憶の片隅にある言葉で、私を押さえつける。
「ホウメイ、お前は消された」
ホウメイと呼ばれた生き物は毒物を注射され、羽をばたつかせたかと思うと虫けらのようにあっけなく殺された。
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