夢の最果て
Chapter5 [6/6]
今まで来たこともないほど高い場所から見るゴミの地平線は、真っ青な空に抱かれて世界一大きな陽炎を立ち昇らせている。自分のいた世界をこんなに凄いと思ったこともなく、ヒスイは一時それに見とれていた。
「クローブさん。見てるか?」
ヒスイはさらに上へ上っていく。たった数百メートルの道のりが長く感じられた。上へ行けば行くほど熱風は大きなうねりでヒスイを引っ張り、空気は薄くなって彼の呼吸をゆっくり深いものにしていく。酸欠で腕の力が薄れていく感触が道の困難さを思わせた。
途中で立ち止まっては梯子にしがみつき、何度もクローブのことを思い出して噛み締める。あの苦しみの中で最後まで歩いたクローブの姿を思い出す。
まだ歩ける。そう思いなおしてはどんどん上を目指していった。
海は、何色だろうか?
ヒスイはそれを真っ蒼だと信じている。
彼は最後まで梯子を上りきった。
サンゴと小男は、下でずっとヒスイの帰りを待っている。
「お嬢ちゃん、随分きれいな宝石を持ってるんだな」
「海の石だよ」
「海に落ちてた石か」
「違う。海が石になったんだ」
賢者の石の色は海の色をしているという。深い蒼で、その中に綺麗な硝子と虹の涙がうつろっているんだって……サンゴはそれまで何百回も聞かされた話を今小男に聞かせている。小男は適当に相槌を打ちながらそれを聞いている。
その時、サンゴの手の上に小さな影がひとつ増えたのがわかった。サンゴが何気なく上を見上げると、真っ蒼な大空の中から何かが落ちてくるのが見えた。
……ヒスイのマスクだった。
「おじさん、ごめん。おれもやっぱり行く」
サンゴは答えを待たずに梯子に手をかけ、小男に止められている。
「おい、戻るまで待てって言われただろう」
サンゴはもう行くことを完全に決めた状態で首を横に振る。夕焼けのあとの消え入りそうな空の色――そんな感じの深い色をした瞳がとても綺麗だった。何度止めても戻る気がまるでないらしい。子ども特有の頑固さに小男は最後には白旗を上げた。
「わかった。それじゃ行きなさい。突風が吹いたら止むまでその場で耐えること。体力が無くなる前に下りてくるか上りきるかしなさい。いいね」
サンゴは微笑んでいた。そうして小男に「バイバイ」と別れを言うとためらわずに海への梯子を上っていった。小男は下から心配そうにじっとそれを見守っている。多分彼女の姿が見えなくなって、戻ってこなくなったのかどうか確認するまでそこにいることだろう。
それから先ヒスイとサンゴがどうなったかは、誰も知らない。
【End.】
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