陽ちゃんとタツの場合 [1/2]


 昼間のAV店の中にはどこからか集まってきた男たちが世代を問わず女を探している。目のやり場に困るほどの無数の裸体の嵐。俺の前に出されるビデオはその客のナマの好みを語ってくれるわけだ。
 詰め襟の学生服、脂っこい眼鏡のおたく、しわ一つないアルマーニのスーツ、くたびれた白いワイシャツ、果てはじじむさいカーディガンに至るまでヤりたい気持ちは全国一律。そして女の好みは千差万別。ビデオをレジにかけ、ぶっきらぼうに料金だけを口に出し黙々と金をやりとりするその間に、俺と客との間には妙な連帯感が生まれている。
 俺もAV店でバイトするようになって久しい。だんだん常連の顔がわかるようになってきていた頃だった。

「おーい、すいませーん」
 その客は硝子の引き戸を開けるなり言った。
「ちょっと、手伝ってよ。俺このままじゃ入れないんだよ」
 俺は作業をやめ、その不可解な台詞を理解するために入り口から顔だけ突き出すその客を見た。
 「おや」と思った。そのロン毛の若者の顔はあるべき所になかった。正確には、あるべき高さになかったのだ。視線をずっと下げていくと、その男はまるでしゃがんだ体勢から顔を突きだしたかのようにして笑いながら俺の名を呼んだ。
「あ、陽ちゃんじゃないか! 久しぶり」
「タツか? 何だよいきなり」
「ちょうどいいや、お前手伝って。段差があって入れねーの」
「段差?」
「そ。段差」
 店のお客たちはその言葉に視線を引っ張られ、タツの姿を見ていぶかしげな顔つきになった。明らかに「招かれざる侵入者」を見る顔。何があったのだろう。
 タツはその視線に気づき、不服そうな顔をしている。
「何だい? 女が入ってきたみてーな顔して。車椅子乗ってたらエロビデオ借りる権利もないのかい?」
 俺は入り口の前まで行って言葉を失った。
 久しぶりに再会した友人が、車椅子に乗っている。足がない。

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