陽ちゃんとタツの場合 [2/2]


 タツと最後に会ったのは一年くらい前だったと思う。渋谷で一緒にナンパして、その辺の女の子と遊んだ。その時にはまだ足があった。今日と同じように茶髪のロン毛で、ストリートカジュアルを粋に着こなしたところにコンバースのスニーカーなんかを履きつぶしていたっけ。
 足はそれから二ヶ月後に交通事故で無くしたそうだ。最近の痛手は付き合っていた彼女と別れたこと。別れた理由を訊いたら
「騎乗位に飽きたんじゃないの?」
 という答えが返ってきた。
「それにしてもさー、この店通路狭いよ。ゆっくりビデオ選べないじゃん」
「はは! おめーみてえな客は初めてだからなあ」
「甘いなぁ陽ちゃんは。これからはバリアフリーの時代よ? エロビデオ屋もバリアフリー推進しなきゃ」
 言いながらタツは笑っている。俺はそんなタツの後ろについて狭い通路の中を歩いている。車椅子の端がビデオに当たるとビデオが下に落ちてしまうからだ。タツは車椅子をこいでは止まり、ビデオを一つ一つ手にとって吟味していた。
「しっかしお前が車椅子で生活だなんて想像もしなかったよ。色々大変なんだろ?」
「ああ、大変大変」
「どういうのが大変なんだ?」
「一、服装に手を抜いてナンパすると変な目で見られる。
 二、ヤらしてくれる女が極端に減る。
 三、そこの『隣のお姉さんはFカップ 総集編』に手が届かない」
「全部それかい!」
「何おう? 俺にとっちゃ全部超深刻なんだよっ! 特に二番!!
 あ、ついでにそこのビデオ取って」
 俺はタツの手の届かない段にある『隣のお姉さんはFカップ 総集編』に手を伸ばすと、それをタツに渡してやった。全くこいつの煩悩振りときたら一年前と全く変わっていない。そりゃそうか。無くなったのは足だけなのだから。
「お前全然変わってねえなあ」
「そうかい?」
「ああ。特に性欲がな」
「当然でしょ。だから苦労すんのさ」

「全く女ってやつは、指や腕が欠けた野郎は男として扱うくせに足が欠けると性欲まで減退すると思ってやがる。大半の女にとって必要なことは相手の性格やルックスよりきちんと正常位やバックでHできるかってことらしいな」
 通路のどん詰まりでタツが止まる。店の中央から脇の通路はさらに狭くなり、車椅子がつっかえてしまう。
 タツはそれ以上先に進むことができなかった。
「俺がおぶろうか」と訊くと
「いいよ」と返ってきた。
「俺は店員にビデオを取ってもらうのはともかく、他人におんぶしてもらって遠慮しながらAVを選ぶなんて、死んでも嫌だね」

 来たときと同じ方向のままでバックをかけ、タツはレジの所まで戻ってきた。
「陽ちゃん、俺決めたわ」
「何を」
「俺さ、風俗の道を志すよ。車椅子になった途端にこれじゃあ不公平じゃん。何より女に不自由し過ぎる」
「そんなに女とヤりたいんかい?」
「当たり前でしょーが。俺まだ若いのよ? 現役よ?
 足がないだけで変なイメージ上乗せしないで欲しいね! 俺は意地でもふしだらな男のイメージを守り通しちゃるっ!」
「変な志持つやっちゃなー」
「いーや変じゃない。俺的にはちっとも変じゃないね。愛とセックスが無くて、何が人生だってんだ」
 タツは車椅子の上から俺を見上げてそんな決め台詞を吐くと、さっき選んだ『隣のお姉さんはFカップ 総集編』をリュックに詰めて俺に別れを告げ、颯爽と店を出ていった。
 店内のお客たちは彼が出ていったのを見てなぜか安堵の息を洩らしたようだった。
「今の人、先輩のお友達ですか」
 さっきまでレジを代わってくれていた後輩は興味をそそられた顔でタツの閉めた戸を見ている。
「そ。筋金入りのスケベだろ」
「でも尊敬しますよ。車椅子なのにそれっぽくなくて」
「尊敬ねぇ……」
 俺は思う。あいつに「尊敬」という言葉は似合わない。
「もしあいつがその言葉聞いたら多分つけ上がるだろうな。そんで、もしそれが本気だってわかったらあいつは多分バカにするよ。お前さんのこと」
 硝子戸の外には眩しいほど日が照っている。今日もいい天気だ。

【End.】

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