近所に、日本にはそぐわないイギリス風建築の一軒家に住むお姉さんがいて、彼女に声をかけられると少年はしばしば不安になった。高校生になったばかりで子どもっぽさが抜け切れていない少年は年頃の女性を見ると過度に意識してしまうところがあるのだ。
「随分大きくなったわね。もう高校生だっけ」
「……うん。姉さんは?」
「来月挙式なの。今はちょっと、その前の準備ね」
玄関脇のほおずきはまだ熟れていなくて、青臭い匂いと共に胸が締めつけられた。相手の顔を見れば自分が異性として見られていないのは明らかだ。昔から弟のように扱われている。
「姉さん、結婚するの?」
「うん。ずっと付き合ってた人がいたんだけどね。その人と」
女性の左手につい目が行って、滑らかな手の薬指にプラチナリングが嵌められているのを見とがめる。別にずっと好きだと思ってきたわけでもないのに。どうしてかいじけた気分になってしまって視線を地面に落とした。少年にとってこの女性の歩き方はいつも早すぎた。追いつけなくて、仕方ないからいつも現状を受け入れる。
おめでとうという声が、我ながら全然嬉しくなさそうだった。彼女には悪い音は聞こえない。幸せの絶頂で、ありがとうと返す声がはつらつと弾んでいた。
「ほおずきが赤くなったら、またいらっしゃい。お茶ぐらい出すわよ」
少年は適当に会釈をするとその場を離れた。女性の視界から自分が消えるまで、なんとなく小走りに走って、一人になるとまた歩く。
──ほおずきが赤くなったら、あんたはもう嫁いでるんだろ。
雨上がりでまだ梅雨寒が残っている。胸の痛みを感じながら、急に子どもじみた不満が抑えられなくなって道端の空き缶を蹴り飛ばした。
「ほおずき」 / 七夕企画「花ショート」より。銀縁眼鏡拍手御礼SS