1945
Chapter1 [2/2]


 つま先がちりちりと焦げていく感覚で眼が覚めました。
「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん!!」
 小さい女の子がうつぶせになった私に叫んでいます。煙のむせる匂い。火の怒る音。サイレン。ひゅーん……と落下音がして爆音が耳をつんざくのです。だんだんつま先が熱く痛みを伴ってくるのです。動けません。上にのしかかってるものが重すぎる。
「誰かぁー!!」
 小さな女の子が人を呼びに行きました。私は何もできません。これは、きっと、夢の続きだから……
「奈津!」



 どうして、起きているはずなのに。私がまだ焦げている。



「あつい! 助けて!! わたしが燃えてる!!」
 息ができないのです。ずっとつま先が焼かれ続けているのに。
「助けてぇ!!」
 女の子が連れてきたお兄さんは私の名前を知っていました。彼は焼けるように熱い瓦礫を素手で持ち上げました。
「早く出るんだ!!」
 私は夢中で隙間のあいた瓦礫からはいずり出ました。町はどこも崩れて真っ赤に燃え上がっていました。三百六十度どこも火があがっていて人々が狂ったようにその中を駆け回っていました。大きな黒い影が轟音を立てて飛んでくるのです。わたしに、ぶつかりそうな勢いで。
「奈津!」
 お兄さんに手を引かれて私は逃げ出しました。もう何も考えられませんでした。逃げなきゃあの黒い影に、赤い火に、殺されてしまう。

 ようやく町から遠ざかっても私は言葉を無くしたままでした。私は真下を向いて廃人のように押し黙っていました。つま先がどす黒いです。ところどころ足の爪がありません。私の側で小さな女の子がわあわあ泣いていて高校生くらいのお兄さんが私の手をつないでくれています。
「お兄ちゃん、お婆ちゃんは!? お婆ちゃんは!?」
 女の子の声が頭の中を吹き通ります。
「……おばあ、ちゃん」
 私は再びパニックの中へ引きずりこまれました。私の家族の姿はありません。私は焼けた足を引きずって業火の中へ走ろうとしました。お兄ちゃんがそれを強引に止めます。
「奈津、何する気だ? よせ!」
「離して! お母さん、お父さん、お爺ちゃん!!」
 女の子とお兄ちゃんは顔を凍りつかせました。
「……奈津?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「まだみんなあそこにいるの!! 離して!! 早く助けに行かなきゃ……!」
「もうみんな死んでるじゃないか! しっかりしろ!!」
「……!」
 うそ。……死んだ、の?
「……うそ、うそよ、まだ生きてるよ! 死んだなんて、そんな……!!」
 私の思いに反して膝が折れてしまうのです。足が、うごかない。
「……奈津」
 どうして女の子は私にしがみつくの? どうしてお兄ちゃんは私を抱きしめて、慰めてくれるの……?
「嫌ぁ――――っ!!」
 本当に狂ってしまいたかった。けれど、お兄ちゃんの腕の中で私は永遠に楽にはなれなかったのです。

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