鎖とその男に関する記録
Chapter1-2 [3/3]


 夜になって、ようやくマリノ・マリーニの前に二人の下僕が現れた。
「たった数時間でやつれたか、バルガス」
 冷笑の先にいるのは自分より十は年上であろう酔っぱらいと、自分より十は年下の奴隷。特に奴隷の方は涙の美しさが絶品である。
「そんなにその娘が大切なのか?」
 彼は大きくうなずいて、ろれつの回らない声で何か言いはじめた。
「勘弁してください……この子は、とても深い傷を持ってるんだ……だから……どうか勘弁してやってください」
 マリノはそれを鼻で笑った。
「ここまで連れてきておいてそれはないだろ。つくづくわからん男だな」
 バルガスは答えない。彼自身にも自分の気持ちがはっきりわかっていないに違いなかった。
「もういい。ご苦労だった」
 金袋が二つ投げ出される。
「嫌あぁ!」
 セフェリが無理やり連れていかれる。彼は思わずマリノを無視して彼女の方を向いてしまった。
「助けて! おじさ――ん!!」
 庭中に悲鳴が響きわたる。バルガスは腰を浮かせて、言葉を必死にこらえていた。眼をぎゅうっとつぶり、切れそうなほど唇を噛みしめ、震えながらうなだれてしまう。
「助けて!!」
 耳を力いっぱい塞ぎ、首を振り続ける。
「許してくれ……!」
 バルガスは何度もそういい続けた。マリノはそれを冷笑のまま見つめていた。
「予定変更だ。バルガス、命令をもう一つ付け足すとしよう」
 彼は虫を弄ぶ子供のように冷酷で、残忍極まりなかった。
「私の寝室へ来い」
 それはまさしく毒の囁きだった。

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