鎖とその男に関する記録
Chapter2-3 [3/3]
二年ぶりに出た町で自分の美しい服を売り払うと、セフェリはあることに気づいた。食物の物価が異常に上昇しているのである。いつもなら二束三文で買えるようなしなびた作物が、それこそ十倍二十倍の高値なのだ。
「どうしてこんなに食べ物が高いの?」
彼女のまだこぎれいな姿を見て、ある商人は干ばつのせいだと教えてくれた。
「お嬢ちゃんみたいに垢一つない子には『干ばつ』から教えたほうがいいかな?」
商人の小馬鹿にした声に彼女はむっとした。
「ふざけないでよ。これでも私は奴隷なの。それくらいわかるわ」
「どうだかね。奴隷だって同じさ。万年食わせてもらってる連中には干ばつなんてメニュー変更程度。違うかい?」
セフェリは何も言えずに店を離れた。実際、彼女には「メニュー変更」さえも行われていなかった。
人々が川岸に集まっている。人ごみならではの熱気が懐かしく漂う。人々の視線の先には、鮮やかな文字で掲示がなされていた。
「ねえ、何て書いてあるの?」
奴隷の彼女は文字を習ったことがない。だからこの手の掲示は人に聞くしかない。
「明日どっかの家で奴隷を公開処刑するんだとさ。反乱罪か何かで」
「反乱……罪?」
「どうせ貴族側の言いがかりだろ」
その親切な男は掲示を読みながらうんざりしたように溜め息をついた。
「この干ばつだ、今時奴隷なんて売れないからなぁ。売ったところで食いぶち取られるんだ、誰も買いやしない」
どうやら最近はよくあることらしい。
「それよりさっさと殺して裏ルートで農民に売った方が儲かるってわけだ」
「売る!?」
「肥料だよ、肥料」
男が当たり前のように吐き捨てたのを聞いて、セフェリは冷や汗が出るのを感じた。
「それ、どこの家?」
「ん? ……えと、近くだな。あの大きな屋敷のとこだよ。マリーニ家っていう」
残酷な響き。思わず気が遠くなる。男が何か声をかけたのも全く聞こえない。
彼女は群集の中で立ち尽くした。
『兵を動かして皆殺しにしてやる』
たった数時間前にマリノがそんなことを言ったような気がする。そして彼ならやりかねなかった。
少女がよろよろと群集から抜け出す。みるみる歩調が早くなる。
「? お嬢ちゃん?」
男の声を背に、セフェリは全速力でもと来た方向へ走り出した。
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