鎖とその男に関する記録
Chapter3-6 [2/3]
「さ、水を飲むんだ」
マリノはタオの体を起こすと、そっと水を飲ませてくれた。果物までくれた。信じられないくらい優しかった。
「どうして私なんかに……?」
タオは寝そべりながらマリノにそっとそう言う。
「私にも、わからないね」
彼はそれ以上は何も言わなかった。ただ複雑な顔をして彼女の隣に座り、手をつないでくれた。
「マリノ様も召し上がってください。私はもう少し眠っていますから」
マリノは黙って首を振った。
「そうですか。じゃあ、少し寝ますね」
タオは何も考えずに、というより何も考えられずにゆっくりと眠った。雨の音が強くなった。彼の手がとても暖かく思えた。それだけだった。
一方、マリノはそのまま起きている。窓を眺め、台所を眺めるのを繰り返して、そのうち窓だけを眺めるようになる。
小さく腹が鳴ったような気がした。
「あとどれくらい持ちこたえられるか」
台所など見る気もしなかった。食べるものはもうほとんど残っていなかった。
* * * * *
じりじりと腹が減ってゆく。雨ばかり降る。自分が地面に這いつくばるカビのように思えてくる。タオは全然元気にならない。
マリノは床に寝転がって体力が減るのを少しでも遅らせようとした。朝から何も食べていなかった。今は昼なのだろうか? 雨のせいでちっともわからない。感覚的には夕方だろう。多分。絡めた手はまだ暖かい。それだけが生きている証拠だった。他にはまるで証拠と思えるものがなかった。
「……マリノ様」
タオが起きたらしい。見ると、彼女は熱い息を吐きながらこっちを見ていた。
「大丈夫ですか? 顔色が」
「大丈夫だ。お前も寝てるといい」
彼女は彼の瞳が変わったと思った。蛇のような強さがなくなっていた。
「マリノ様、食べるものは残っていますか? 私のことはいいですから、お召し上がりになって」
「お前が寝てから食べたさ」
血色の悪い顔。動いた気配のない手。何よりも目をじっと見ていればわかる。
「もう食べ物が無いんですね……?」
「何を言ってるんだ。私を信用できないというのか? いいから寝てろ」
「あなたの目を信用しているからです」
マリノは返答できなかった。
「……働きに行かなきゃ……」
タオが無理やり起き上がろうとする。手ががくがく震えていた。
「やめろ、寝てるんだ」
「でもこのままじゃ」
「いいから!!」
マリノがそれを無理やり寝かせつける。彼は膝で立ち上がると台所へ行ってテーブルの上をあさった。
……しなびたジャガイモが一つだけだった。
「タオ、イモ料理の作り方を教えろ」
タオは目を丸くしてしまった。マリノは鍋をかまどの上に乗せている。本気で作るつもりのようである。
「私が作りますからいいですって……」
「いいからそこから教えろ。命令だぞ」
意地っ張りで真剣な子供の顔。仕方なくタオは寝たままでゆでイモの作り方を教えた。火をつけて、水からイモをゆでて、塩をちょっぴりふる。たったそれだけなのにマリノはとても緊張していた。かわいらしくもあった。最後に皿にイモを乗せた時の顔といったらそれはもうやたらに誇らしげで、いかにも主君の誇りは守ったぞと言いたげだった。たかがゆでイモなのに。
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