鎖とその男に関する記録
Chapter3-8 [2/3]


「おじさん、今日街へ行ってきたわ」
「ふーん、どうだった?」
「おじさんの伝記が出ててね、とっても面白かったから買ってきちゃった」
 たとえ城の中だろうと夕食は二人でとる。召使いは一切置かない。
 ヴィークラムはセフェリの差し出した本をちらっと読んで笑いだした。
「おいおい! 何かものすごい内容だな! 誰の人生だよこりゃあ、っくくくくく……」
 馬鹿笑いするのをこらえると腹がよじれて苦しい。美化とか脚色とかいう次元を超えてほとんど笑い話である。
「こんなまがいモノが通用するんだから、くく、世の中面白えな、うくくく……」
 自分の伝記がこれほど馬鹿馬鹿しくできているとは思わなかった。本によると自分は生まれた時に両目から光を放っていたとか、子供の頃から空を見て神と会話し帝王学を学んでいたとか、時の王が彼を見て驚きのあまり乗っていた象から落ちたとか無茶苦茶に書いてあるのである。ヴィークラムは腹の底から大笑いした。どんな本よりも笑えた。最後には笑い過ぎて、涙目になっていた。
 セフェリはそれを不思議そうに見ている。
「はは、どうしたよ、何かついてるか?」
「おじさんがそんなに大笑いしたの、初めて見たから」
「はは、そうか?」
「だって最近おじさん自分から笑ってなかったもの。いっつも同じ顔で笑顔作るか、しかめっ面か、そうでなきゃ疲れてるかどれかだった」
 不意に笑いが静まる。彼女は頬杖をついてヴィークラムをじっと見た。
「自分の伝記の感想はどうですか、ヴィークラム陛下?」
 何だか皮肉っぽい気分になった。セフェリだけはいつも「おじさん」と呼んでくれていたのに、彼女の口から「陛下」だとは。
「笑えるくらいくだらねえ人生だ」
「どうして? みんなはおじさんのこと尊敬してるよ。きっと」
「お前はわかるだろ? 王様になると余計な悩みを抱えにゃならん。ちゃちい冠や尊敬だけで引き受けるには重過ぎらぁ」
 力のない笑みだった。王になってから彼は年齢より数段老けた。心なしか白髪もぽつぽつと生えてきていた。
「お前の婿だってそうだ。金が絡むと人間ってのは脆いからなぁ」
「だからあの人はそうじゃないって」
「わかってる。お前の目は信用してる」
 父親の目は時として哀しい暖かさを持つものらしい。
「……ただ、な。お前が嫁入りしたら昔みたいに一人で飯食うんだ。それだけのことだ」
 気のせいだろうか。七年前よりずっとヴィークラムの背格好は小さくなっていた。鉄を打っている彼を見た時の憧れが、反乱を起こした時の熱い瞳が、砂になってこぼれ落ちていくのだった。
「お前は自由に生きてみろ。俺や今の身分に捕らわれんなよ」
 自分が大きくなったということだろうか?
 それが大人になっていくということだろうか?
「おじさんは、一人で大丈夫なの? お后さんとかもらったりしないの?」
 セフェリがそう聞くと、彼はよそへふっと目をそらして呟いた。
「お前が嫁に行ってから、考えるさ」

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